• 夢の抗がん剤「キムリア」、保険適用

        • 2022/06/02

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  • ソウル大学病院が独自のCAR-T治療薬の開発に成功

    2022年4月、「夢の抗がん剤」と呼ばれる世界初のCAR-T治療薬「キムリア」が、韓国で保険適用の対象となった。従来、1回投与当たり3億ウォン(約3,000万円)に達する薬代が、500万~1000万ウォン(約50万~100万円)程度の自己負担で済むことになり、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫や25歳未満の白血病患者らの経済的負担が軽減され、長期生存が期待できるようになった。外国人でも韓国の医療保険適用の対象になる要件(6ヶ月以上在住)を満たせばキムリアの治療を保険適用して受けることができる。そうではない場合も、いつでも自由診療で治療を受けることができる。
    なお、ソウル大学病院は4月5日、韓国病院の中では初めて独自技術で製造したCAR-T治療薬を18歳の白血病患者に投与し、その治療に成功したことを明らかにした。韓国が次世代のCAR-T治療をリードする国への第一歩を踏み出した瞬間だった。

    CAR-Tの治療中、免疫細胞(T細胞)ががん細胞と戦っている

    INTRO、自身の免疫細胞でがんを治療する

    治療薬のキムリアが世界的に注目を集めている理由は、従来の抗がん剤のように薬剤や合成物質ではなく、患者自身の免疫細胞を薬剤の原料として使う画期的治療薬であるためだ。患者から採取した免疫細胞(T細胞)に遺伝子操作によりがん細胞を攻撃するように仕組んだオーダーメイド治療で、従来の殺細胞性抗がん剤より副作用が少なく、他の治療薬に比べて治癒率が高い。キムリアの登場によって多くの患者は希望を持つことになった一方、高度化された技術による患者1人ひとりに合わせたオーダーメイド工程で作られる最先端のバイオ医薬品であるため、3億ウォン(約3,000万円)を越える莫大な費用が治療への高いハードルとなっていた。しかし今回、保険適用の対象になったことによりキムリアは韓国の医療現場で一般的に使われる見通しだ。

    PART 1.キムリアって何?

    免疫細胞、がん細胞のみを選んで攻撃する!

    世界中の医療従事者らはここ数十年間、患者自身の免疫細胞を用いてがんを治療する方法を見つけるために研究を重ねてきた。だが、キムリアが登場する以前のこういった試みは、ほとんどが失敗に終わった。免疫細胞ががん細胞を正しく攻撃できず、見逃してしまう場合が多かったのがその理由だ。
    キムリアを開発したペンシルベニア大学のカール・ジューン(Carl June)教授は、その点に注目して患者の免疫細胞ががん細胞を捉えるようにしてくれる遺伝子操作技術を開発した。2011年に末期の慢性リンパ性白血病患者3人を対象に、患者の免疫細胞(T細胞)を採取してがん細胞を捉えるように遺伝子操作を施し、これを大量に培養して患者に投与した。その結果、3人のうち、2人の患者のがん細胞が完全に消滅するという驚くべき治療効果を確認することができた。スイス製薬大手ノバルティスではカール・ジューン教授のアイディアを基にキムリアを開発、現在はびまん性大細胞型B細胞リンパ腫と白血病の治療分野で顕著な成果をあげている。

    CAR-T治療法を開発するために成長するバクテリア - 白血病、リンパ腫療法の新しい方法

    韓国のキムリア治療施設は?

    キムリアは「先端再生医療および先端バイオ医薬品の安全および支援に関する法律」に基づき、政府により人体細胞などの管理業として認められたCAR-Tセンターでしか治療を受けることができない。現在、ソウル大学病院、セブランス病院、サムスンソウル病院、ソウル聖母病院の4ヶ所がCAR-Tセンターとして認められており、今後全国的に広がる予定。
    キムリアの製造において患者の免疫細胞は治療薬の原料となるため、他の抗がん剤の原料に対する規定と同様、非常に厳しい管理が求められる。ソウル大学病院の血液腫瘍内科コ・ヨンイル教授は「ソウル大学病院は食品医薬品安全処とノバルティスが定める厳しい要件を満たすために、2021年に大々的な施設工事を行い、キムリア治療に関わる施設や人材、設備などが完璧に揃っている。キムリアの投薬後に起こり得る副作用から患者を守るための対応も徹底している」と説明した。

    キムリア治療薬の強み

    ① 高い治癒率
    キムリアは比較可能な他の治療薬より治癒率が高いとされている。75人の小児急性リンパ性白血病患者を対象にした臨床研究の結果、投薬から3ヶ月経過した時点で81%が完全寛解(がんが見つからない状態)に至り、投薬から6ヶ月経過した時点で無イベント生存率が73%、全生存率が90%に達した。

    ② 副作用の少なさ
    一般的に使われる抗がん剤は脱毛、白血球減少などの副作用がある。だが、キムリアの場合は患者自身の免疫細胞を原料とするため、従来の抗がん剤に比べて副作用が少ない。造血幹細胞移植で観察される移植片対宿主病のような免疫学的副作用もない。

    キムリアの副作用

    キムリアは遺伝子が改変されたT細胞で、これががん細胞を攻撃するうちに、免疫細胞の働きが過剰に活性化してしまうと、独特なサイトカイン放出症候群(Cytokine Release Syndrome)と神経毒性症候群(ICANS)などの副作用が現れることもある。これは従来の抗がん剤では見られない副作用である。

    免疫細胞を採取するための採血

    キムリアによる治療過程

    • STEP 1 患者自身の免疫細胞を採取(Leukapheresis)
    • STEP 2 採取した免疫細胞を小分け/凍結
    • STEP 3 凍結した免疫細胞を米国へ輸送
    • STEP 4 米国の工場でキムリアを製造
    • STEP 5 製造した凍結状態のキムリアを病院へ搬入
    • STEP 6 患者に適切な前処置をしてからキムリアを解凍して投与
    CAR-Tの治療過程

    キムリアで治療可能な疾患

    韓国では現在、25歳未満の急性リンパ性白血病 、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫の成人患者を対象にキムリアの投与が可能。

    キムリアの治療事例

    • 患者紹介 70代の男性
    • 主要症状 首回りに腫瘤が観察されて来院しました。
    • 診断法および疾患名 首の腫瘤の組織検査によりびまん性大細胞型B細胞リンパ腫と診断されました。
    • 治療法 当時、保険が適用される殺細胞性抗がん剤を使ったが失敗し、キムリアを投与することにしました。
    • 治療結果 これ以上がん細胞が見つからない寛解の状態で、キムリアの副作用にも初期対応することができ、うまく乗り越えました。
    • 患者紹介 宗教上の理由で輸血を拒否する70代の男性
    • 主要症状 貧血と血小板減少症、発熱などの症状で来院しました。
    • 診断法および疾患名 骨髄検査によりびまん性大細胞型B細胞リンパ腫の骨髄浸潤による症状と診断しました。
    • 治療法 当時、保険が適用される殺細胞性抗がん剤、治験、放射線治療など様々な治療法を駆使したが全部失敗し、キムリアを投与することにしました。
    • 治療結果 これ以上がん細胞が見つからない状態で、副作用も軽いものでした。特に、宗教上の理由で輸血を拒否するなど、数々の困難があったが、キムリア治療後、貧血と血小板減少症も早期回復して現在は健康をかなり取り戻しています。

    ※上記の内容はソウル大学病院(http://www.snuh.org)の治療事例です。

    Chimeric antigen receptors (CAR) on a T-cell bind to molecule of cancer cell surface

    キムリア治療が可能な医療機関(2022年5月現在)

    ソウル大学病院、セブランス病院、サムスンソウル病院、ソウル聖母病院

    PART 2.ソウル大学病院で生産したCAR-T治療薬

    なお、ソウル大学病院は韓国病院の中で初めて独自で生産したCAR-T治療薬を18歳の白血病患者に投与して治療に成功するという快挙を成し遂げた。ソウル大学病院の小児青少年科カン・ヒョンジン教授チームは、韓国病院では初めてCAR-T治療薬の製造から投与後の患者の治療まで全ての過程を主導して白血病患者の命を救った。2018年から開発に着手、約4年越しの成果で、Miltenyi Biotec社の自動化製造機械を院内に導入し、独自のCAR-Tの製造システムを構築することができた。通常、キムリアの製造には短ければ4週間、長ければ8週間かかるとされるが、同病院ではたった12日間でCAR-T治療薬を製造することに成功し、早期に投与できるという強みを持つ。外国人もCAR-Tの治験に参加することは可能だが、CAR-T治療薬以外の医療費用は自己負担しなければならない。
    同病院は今後、健康保険が適用できる治療抵抗性・再発性白血病患者の場合、キムリア治療を直ちに施し、白血病の微小残存病変の再発、脳脊髄など髄外再発など、キムリアの健康保険が適用できない死角にいる患者を対象に臨床研究を続けていく方針。研究を主導したカン・ヒョンジン教授は「病院で製造したCAR-Tを患者に投与し、治療・管理まで可能な統合システムを構築したことに意味がある」と述べた。同病院は今後、院内に構築された前臨床試験、GMP製造施設、臨床試験施設を用いてワンストップのCAR-T開発システムをより精巧化していく計画を明らかにした。これによって韓国で開発されている新規CAR-Tの開発および初期臨床研究の活性化が期待される。

    ソウル大学病院のCAR-Tワンストップ開発システム

    ソウル大学病院のCAR-T治療事例

    韓国病院の中で初めて独自のCAR-T治療薬を18歳の白血病患者に投与し、その治療に成功
    • 患者紹介 フィラデルフィア染色体陽性の最高リスク群の急性リンパ芽球性白血病患者である18歳女性
    • 主要症状 以前に造血幹細胞移植を受けたが再発、その後新しい標的薬を用いた複合療法により寬解に至ったものの、再び微小な再発を起こしてこれ以上治療が難しい状態でした。
    • 疾患名 急性リンパ芽球性白血病s
    • 治療法 患者の末梢血からリンパ球を集めた後、わずか12日でCAR-T治療薬を製造し、患者に投与しました。
    • 治療結果 代表的な免疫反応のサイトカイン放出症候群が起こったが、治療がうまくいき元気な姿で退院しました。その後、骨髄の追跡検査を行い、白血病細胞が完全に消滅したことを確認しました。患者は特に副作用はなく、健康な状態です。
    note

    作成 : キム・ジョンユン記者
    監修 : ソウル大学病院の血液腫瘍内科コ・ヨンイル副教授